腰痛とは

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腰には前方に凸の曲がりで湾曲した5つの骨からなる腰椎があり、ここに何らかの疾患があることで「腰痛」という症状が出ることが多くみられます。
日本整形外科学会の調査では、日本で腰痛の症状のある人は約3000万人いると推計されており、運動器の疾患の中で腰痛は最も多い症状の1つと言われています。

腰痛の症状が現れる病気を総称して「腰痛症」といい、その原因としては特定できるものとして、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症などがあり、内臓からの神経も多く伸びていることから、慢性のすい炎や十二指腸潰瘍、腎盂腎炎、尿路結石、子宮内膜症などの内臓疾患によって腰痛が引き起こされる場合もあります。

腰痛の原因となる主な疾患には、以下のようなものがあげられます

  • ぎっくり腰
  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 変形性腰椎症
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 胸、腰椎圧迫骨折
  • 腰椎分離、すべり症
  • 坐骨神経痛

このほか、明確な原因となる疾患がない「非特異的腰痛」と呼ばれるものもあります。
実は腰痛全体の約85%は、この非特異的腰痛であると言われており、日ごろ家事や仕事などで前かがみになって作業を行うなど、同じ姿勢を取り続け、持続的に腰に負担がかかっていることが原因と考えられています。

さらに痛みを恐れて体を動かさず不自然な姿勢を取り続けることによって、筋肉の緊張や血流の悪化、神経が過敏になることなどが引き金となっているとも考えられます。
またストレスや抑うつなどの心理的要因があると痛みが増幅されると言われており、こうしたことから急性の腰痛が痛みの悪循環に陥り、慢性の腰痛となってしまうケースも多いと考えられています。

腰痛症の治療

腰痛症の治療としては、原因が特定できたもの(特異的腰痛)については、その原因となる疾患に対する治療を優先に行います。
また非特異的腰痛については、基本的に痛みを抑えるための鎮痛消炎剤などによる薬物療法や、理学療法、コルセットなどで安静に保つ装具療法等による保存療法となります。

理学療法では、筋肉や関節を和らげるストレッチやマッサージ、温熱療法などの物理療法が行われます。
また筋力をつける、腰の痛みがでない動きや日常の姿勢を覚えるなどを目的とした運動療法などのリハビリテーションも行っていきます。

マッサージでは固まった筋肉を柔らかくします。
腹筋のトレーニングによって腰回りの筋肉による包み込み安定させ、臀筋 (お尻の筋肉)のトレーニングによって背中の筋肉とともに腰をしっかりと支えられるようにすることを目指します。

また腰へのストレスを減らすため、骨盤の筋肉である腸腰筋をストレッチし、骨盤と背骨の位置を正しく戻していくなどします。

腰痛症の主な疾患

腰椎椎間板ヘルニア

腰痛の原因で多くみられるのが腰椎椎間板ヘルニアです。腰椎は5つの椎体によって構成されており、椎間板は椎体と椎体の間にあってクッションの役割りを果たしているものです。
この椎間板が加齢とともに変性し、弾力を失って硬くなると亀裂が入り、中の組織の一部が飛び出します。
これが腰椎椎間板ヘルニアで、飛び出した組織が神経を圧迫するため、腰に痛みが生じるようになります。

腰椎椎間板ヘルニアの症状

変性は早ければ20代から起こり、徐々に進行していきます。
こうしたものは慢性型と呼ばれますが、急性型のものもあります。
たとえば重い荷物を急に持ち上げたり、くしゃみをしたりしたときなどに発症し、激しい痛みを伴います。
起き上がったり歩いたりすることも困難になりますが、時間の経過とともに次第に軽快します。
ただし急性型をそのまま放置していると、慢性型に移行する場合もありますので注意しましょう。

腰椎椎間板ヘルニアでは腰痛症状のほかに、太ももやふくらはぎの痛みやしびれがみられる場合があります。
これは椎間板の組織が神経を圧迫して起こるもので、放置していると圧迫が強まり、痛みやしびれが進行して歩けなくなったり、痛みで眠れなくなったりする場合もあります。

さらに長引くと、足に力が入らない、足の筋力が低下する、といったことも引き起こされてしまいます。
また痛みを避けるため不自然な姿勢を続けることで、脊椎が曲がってしまったり、神経を圧迫する強さや部位によっては頻尿や残尿感、尿閉、便失禁などを招くこともありますので注意が必要です。

腰椎椎間板ヘルニアの治療

腰椎椎間板ヘルニアの治療としては、コルセットを装着するなどの装具療法で安静にしておくことが基本となります。
さらにマッサージなどの理学療法によって、約8割の患者さまが2~3週間で症状の改善がみられるとされています。

痛みやしびれが強い場合は鎮痛剤を使用し、神経の腫れにはビタミンB12製剤を、筋肉の腫れが強ければ筋弛緩剤を組み合わせて使用する場合もあります。

こうした治療でも痛みが改善しない場合は、腰の神経に直接局所麻酔剤を注射する「神経根ブロック」という治療を行うこともあります。
神経の圧迫度合いが強い場合は、自然には改善しにくく、様々な症状を引き起こしている場合があります。
日常生活に支障をきたしたり、排尿・排便障害などの強い神経症状が出たりしている場合は、突出した組織を摘出する手術や不安定になった腰椎を固定する手術が検討されます。

腰椎すべり症

腰の椎骨が前方に「すべる」などして正常な位置からずれてしまい、神経を圧迫して腰痛やしびれなどの症状が出ている状態が腰椎すべり症です。

原因としては、加齢などによって椎間板や椎間関節が変性することで引き起こされます。
これは「腰椎変性すべり症」とも呼ばれており、閉経後の女性に多く見られますが、女性ホルモンの減少の影響による骨粗しょう症からくると考えられています。
また変性が進行するなどして、腰椎の一部が疲労骨折を起こすと「腰椎分離症」となり、これによって引き起こされるのが「腰椎分離すべり症」です。

腰椎すべり症の症状

腰椎すべり症で現れる症状としては、腰痛のほか、足の痛みやしびれがあります。
また脊柱管が狭窄することによって、間欠跛行(一定の距離を歩くと足に痛みが出て歩き続けられなくなり、座って休むと痛みが治まって再び歩けるようになるもの)もみられるようになります。
進行すると脚のしびれや麻痺のほか、排尿・排便の障害もみられ日常生活にも支障をきたしてしまいます。

腰椎すべり症の治療

治療としては、安静を図る装具療法や、腰部の筋肉を温め症状の改善を図る温熱療法、専用の医療機器で縦方向に腰部を引っ張って伸ばす牽引療法などの理学療法で症状の改善を図っていきます。
痛みに関しては非ステロイド性鎮痛消炎剤(NSAIDs)やアセトアミノフェン、筋弛緩薬などを用いる場合があります。
また、痛みの原因となっている神経や部位に局所麻酔薬を注射し、痛みの軽減を図る「神経ブロック療法」も選択肢となります。
それでも症状の改善が難しい場合は手術を検討します。